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犬の膝蓋骨脱臼について
犬の膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)は、膝関節内にある膝蓋骨(お皿の骨)が正常な位置から外れる状態を指します。膝蓋骨は、膝関節を守り、大腿四頭筋の力を真っ直ぐに脛の骨に伝える役割を果たしており、その位置がずれることで、犬が歩く際に痛みや不安定さを感じることがあります。膝蓋骨脱臼は、軽度から重度まで様々な程度があり、犬によって症状の現れ方も異なります。
原因
膝蓋骨脱臼の主な原因は、遺伝的な要因や先天的な骨の発達異常です。特に小型犬に多く見られますが、肥満や外傷(事故や運動など)も一因となることがあります。膝蓋骨が脱臼する位置は、大きく分けて内側(内方脱臼)と外側(外方脱臼)がありますが、内方脱臼が一般的です。
症状
膝蓋骨脱臼の症状は犬によって異なりますが、以下のような症状が見られることがあります:
- 足を引きずる、または跛行(びっこを引く)
- 歩くときに足を曲げることがある
- 脱臼が起こるときに、膝を軽く外してから元に戻す仕草をすることがある
- 急に痛がって叫ぶ、または歩行を拒否する
- 膝の周りを舐めたり、足を触られると嫌がることがある
脱臼が一時的であれば、数秒から数分で元に戻ることもありますが、何度も繰り返す場合や、膝の位置が戻らなくなると、痛みや関節の損傷が進行していくことがあります。
進行するとと膝蓋骨以外にも問題が出てくることが多く、前十字靭帯の断裂や半月板の損傷が起きたりします。ここまでくると常に痛みを感じていたり、体重がかけられず常に足を上げるようになったりします。
診断
膝蓋骨脱臼の診断は、獣医師が犬の歩き方や足の動きを観察し、触診を行うことで行います。場合によっては、X線(レントゲン)検査を実施し、骨の状態や膝関節の位置を確認することもあります。膝蓋骨脱臼の重症度を評価するために、グレード(1~4)に分類されることがあります。
治療方法
膝蓋骨脱臼の治療方法は、症状の重さや犬の年齢・体調に応じて異なります。
- 軽度の場合:運動制限や消炎鎮痛薬を使って痛みを和らげ、膝関節の負担を減らす方法があります。
- 中程度から重度の場合:手術が必要になることがあります。手術では、膝蓋骨が脱臼しないように骨や靭帯を修復する手術を行います。手術後はリハビリが必要になります
予後
膝蓋骨脱臼の予後は、治療のタイミングや重症度によって異なります。軽度の脱臼であれば、手術なしでも十分に生活が可能な場合がありますが、重度の場合は手術が必要で、その後のリハビリが重要です。
症例
症例は2歳のトイプードルです。後ろ足が痛くて着けないという主訴で来院されて検査をしたところ膝蓋骨脱臼による痛みがあるようでした。痛み止めへの反応はあまりなかったため手術適応といたしました。関節の超音波検査(エコー検査)による靭帯の検査では靭帯の手術は不要と判断しました。手術では膝蓋骨が乗る溝を掘る手術(滑車溝造溝術)と、変形してしまった骨を移植する手術(脛骨粗面転移術)を行いました。
術後の経過は順調で術後3日くらいで足を着くようになりました。
術後の傷が安定した後は、移植した骨を固定するために使用しているピンを抜くことで体の中に人工物を残さず、元々の自分の組織のみで膝を作ることができます。この処置は術後2−6ヶ月くらいで行います。
間欠的な破行が見られる場合には靭帯が切れる前に早めに来院ください。