移行上皮癌について
移行上皮癌は獣医領域では犬でよく見られ、猫ではそこまで頻度は多くありません。
■ 移行上皮癌とは?
移行上皮癌(いこうじょうひがん)は、**膀胱(ぼうこう)や尿道、腎盂(じんう)などの尿路にできる悪性腫瘍(がん)**です。膀胱の三角部という尿の出口に近い部分にできることが多く、排尿に関わるさまざまな症状を引き起こします。
この腫瘍は進行が比較的早く、周囲の組織に浸潤(しんじゅん)したり、肺やリンパ節などに転移する可能性もあるため、早期の発見と対応がとても大切です。
■ よくある症状
以下のような変化が見られることがあります:
- 頻尿(おしっこの回数が増える)
- 血尿(尿に血が混じる)
- 排尿時のいきみや痛み
- おしっこが出にくい、出ない
- 元気や食欲の低下(進行時)
これらの症状は膀胱炎などと似ているため、初期には見過ごされやすいこともあります。
■ 診断方法
移行上皮癌を見つけるためには、いくつかの検査が必要です:
- 尿検査:異常細胞や血液の混入を調べます
- 超音波検査やレントゲン検査:腫瘍の存在や大きさを確認します
- 細胞診や生検:尿や組織から細胞を採取して、がんかどうかを確定します
- 遺伝子検査:細胞の遺伝子検査によって癌の可能性を調べます
症例紹介
症例は15歳の猫の移行上皮癌で、既に腫瘍によって尿管閉塞が起きていました。大学病院に通院していたものの、あと1週間持たないと言われ来院しました。検査の結果では腎臓の数値はとても高く状態も悪く数日も持たなさそうな状態でした。今回は高齢であること、尿管閉塞が体調不良の原因になっている可能性が高いことを考慮して尿管にステントを入れて尿管閉塞を解消する手術を行うことにしました。
画像は手術中の膀胱で、触ると膀胱の根本に腫瘍があることが分かります。
また尿管はかなり拡張しており尿管閉塞になっていることが分かります。
左の腎臓と尿管には膿が大量に溜まっていたため尿管と腎臓の中を洗浄しているところです。
尿管の洗浄が終わったらステントを入れて尿管の出口を開口して開講された状態が維持されるようにステントを設置します。
術後は元気になりご飯も食べられるようになり、術前の検査ではBUNが測れないくらい高かったものが、ほぼ基準値付近まで下りました。今回は腫瘍の摘出は行っていませんが、尿管の閉塞を解除しただけで体調は良くなりました。元気になったので、腫瘍のコントロールを抗がん剤などの薬を使って行うことも検討できるようになりました。
高齢で状態が悪くてもなにかできることがまだあるかもしれません。なにか気になることがあればご相談ください。