肉芽腫性リンパ管炎について

1.肉芽腫性リンパ管炎とは

肉芽腫性リンパ管炎とは、主に腸の壁やその周囲にあるリンパ管に炎症が起こり、慢性的な炎症によって「肉芽腫」と呼ばれるしこり状の組織が形成される病気です。

リンパ管は、腸から吸収された脂肪などを運ぶ役割を担っています。このリンパ管に炎症が起こると、リンパ液の流れが妨げられたり、リンパ液が周囲の組織に漏れ出したりすることで、さらに炎症が悪化することがあります。

病変が腸の一部に限局してしこりを形成する場合もあれば、腸の広い範囲や腸間膜などの周囲組織にまで炎症が広がる場合もあります。

2.原因について

現在のところ、肉芽腫性リンパ管炎が発症する明確な原因は、まだ解明されていません。

リンパ管の障害やリンパ液の漏出に対する免疫反応、慢性的な炎症、感染症など、さまざまな要因が関与している可能性が考えられています。しかし、すべての症例に共通する原因は特定されていません。

一部の症例では細菌などの感染が関与している可能性も報告されていますが、多くの場合、明確な感染源を特定することは困難です。

そのため、現時点では特定の食べ物や生活環境が原因で発症する病気とは考えられておらず、飼い主様の飼育方法に問題があって発症するものでもありません。

3.主な症状

病変の発生部位や広がり、炎症の程度によって症状は異なります。

主に以下のような症状が認められます。

  • 嘔吐
  • 下痢や軟便
  • 食欲の低下
  • 体重の減少
  • 腹痛
  • 元気の低下

また、腸の炎症やリンパ管の障害が進行すると、腸からタンパク質が漏れ出す「蛋白漏出性腸症」を引き起こすことがあります。

その場合、血液中のアルブミンなどのタンパク質が減少し、腹水や胸水、手足のむくみなどが認められることもあります。

病変がしこり状に大きくなると、腸の通過障害を引き起こし、嘔吐や腹痛などの症状が強く現れる場合もあります。

4.診断について

肉芽腫性リンパ管炎は、超音波検査や血液検査などによって疑うことができます。

超音波検査では、腸の壁が部分的に厚くなっていたり、腸の周囲にしこり状の病変が認められたりすることがあります。

ただし、これらの所見は腫瘍やほかの炎症性疾患でも認められるため、画像検査だけで確定診断することは困難です。

確定診断には、病変の組織を採取し、病理組織検査によって肉芽腫性の炎症やリンパ管の病変を確認することが重要です。

5.治療について

肉芽腫性リンパ管炎の治療には、大きく分けて外科治療と内科治療があります。

病変の大きさや発生部位、腸の通過障害の有無、炎症の広がり、全身状態などを考慮して治療方法を選択します。

外科治療

病変が腸の一部に限局してしこりを形成し、腸の通過障害を引き起こしている場合や、病変の切除が必要と判断される場合には、外科手術を行うことがあります。

手術では、病変を含む腸の一部を切除し、正常な腸同士をつなぎ合わせる処置を行います。

外科治療には、腸の通過障害を改善するとともに、病変を採取して確定診断につなげられるという利点があります。

一方で、炎症が腸の広い範囲に及んでいる場合には、病変をすべて切除することが難しいこともあります。また、手術によって病変を切除できた場合でも、残った腸や周囲の組織に炎症が残存したり、再発したりする可能性があります。

さらに、腸を切除する手術には、縫合不全や腹膜炎などの合併症のリスクも伴います。

内科治療

病変が広範囲に及んでいる場合や、腸の通過障害がなく、全身状態などから手術を行わない方がよいと判断される場合には、内科治療を選択することがあります。

主な治療は以下のとおりです。

  • 免疫抑制療法: ステロイド剤などを使用し、過剰な炎症や免疫反応を抑えます。
  • 食事療法: 消化しやすい食事や低脂肪食、加水分解タンパク食などを使用し、腸への負担を軽減します。
  • 抗菌薬: 感染症の関与が疑われる場合など、必要に応じて使用します。
  • 支持療法: 脱水や電解質異常、低タンパク血症などが認められる場合には、それぞれの状態に応じた治療を行います。

内科治療では、炎症を抑えて症状の改善を目指します。ただし、治療への反応には個体差があり、長期間の投薬や食事管理が必要になることもあります。

外科治療と内科治療の併用

外科手術で病変を切除した後も、炎症が残っている場合や再発のリスクが高い場合には、内科治療を併用することがあります。

そのため、手術によって病変を切除することだけが治療の最終目的ではなく、術後も炎症の状態を継続的に確認し、必要に応じて治療を行うことが重要です。

6.予後について

肉芽腫性リンパ管炎の予後は、病変の広がりや重症度、治療への反応によって大きく異なります。

病変が限局しており、外科手術によって十分に切除できた場合には、長期間にわたって症状が落ち着く症例も報告されています。一方で、手術後に炎症が再発し、追加の内科治療が必要になる場合もあります。

また、内科治療のみで症状が改善し、長期間にわたって良好な状態を維持できた症例も報告されています。

ただし、まだ報告されている症例数が少ない比較的まれな病気であり、どの治療法が適しているか、また長期的にどの程度の治療効果が期待できるかについては、十分に明らかになっていません。

そのため、治療を継続しながら症状や血液検査、超音波検査などによって経過を確認していく必要があります。

7.治療後の管理について

治療後は、症状が改善していても、炎症が残っていたり再発したりする可能性があるため、定期的な検査が重要です。

特に、以下の項目を確認していきます。

  • 食欲や便の状態、嘔吐の有無
  • 体重の変化
  • 血液中のアルブミンや総タンパク質の値
  • 炎症の程度
  • 超音波検査による腸の壁や周囲組織の状態

内科治療を行っている場合には、症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて投薬量を調整していきます。自己判断で投薬を中止すると、炎症が再燃する可能性があるため、必ず獣医師の指示に従ってください。

8.まとめ

肉芽腫性リンパ管炎は、腸のリンパ管を中心に慢性的な炎症が起こり、しこり状の病変を形成することもある、比較的まれな病気です。

現在のところ明確な原因や確立された治療方針はなく、病変の状態に応じて外科治療や内科治療、あるいはその両方を組み合わせて治療を行います。

適切な治療によって症状の改善や長期的な安定が期待できる症例もありますが、再発や治療が長期化する可能性もあります。

そのため、それぞれの状態に応じた治療を選択し、継続的に経過を確認していくことが大切です。

 症例紹介

症例は5歳のフレンチブルドッグで慢性的な嘔吐と食欲の低下・たべてもこぼす状態を主訴に来院しました。

超音波検査にて小腸の腫れがみられ、腸の腫瘍だと思われるほど腫れていました。

吐いている原因はおそらく腸のこの部分だろうと推測し、生検もしくは切除を目的として開腹手術を行いました。今回内視鏡が選択肢に入りにくかったのは小腸の下部の回腸に腫瘤が形成されていたためです。体表からの細胞の検査でも細胞は取れず、開腹をすることになりました。

術中画像です。正常に近い部分の腸に比べて腫れていることが分かります。

腸を広げたところです。腸間膜のリンパ管には白いリンパ液がたまっており、リンパ管は拡張し、押しても潰れないくらいに固くなっておりました。

腫れている腸と、リンパ管を切除して、腸を繋いだところです。

症例はその後内科治療に反応し嘔吐は止まり、食欲も出てきております。