猫の膀胱腫瘤について

猫の膀胱腫瘍は比較的まれな病気ですが、高齢の猫で血尿や排尿困難が続く場合には、鑑別診断の一つとして考える必要があります。

膀胱腫瘍には良性と悪性がありますが、猫では悪性腫瘍である尿路上皮癌(移行上皮癌)が代表的です。腫瘍の種類や発生部位によって、症状や治療方法、今後の経過が異なります。

主な症状

  • 血尿
  • 何度もトイレに行く
  • 尿が出にくい、排尿時に痛がる
  • 少量ずつしか尿が出ない
  • トイレ以外の場所で排尿する
  • 食欲低下、元気消失

これらの症状は膀胱炎や尿石症でもみられるため、症状だけで腫瘍と判断することはできません。特に高齢の猫で血尿や膀胱炎のような症状が繰り返される場合には、画像検査などで膀胱内の状態を確認することが重要です。

尿管閉塞による腎障害

膀胱腫瘍が膀胱の出口付近や尿管の開口部に発生すると、尿の流れを妨げることがあります。

尿管とは、腎臓で作られた尿を膀胱へ運ぶ細い管です。左右の腎臓からそれぞれ1本ずつ伸びています。

腫瘍によって尿管が圧迫されたり、腫瘍が尿管の開口部に広がったりすると、尿が膀胱へ流れにくくなります。その結果、尿が腎臓側にたまり、腎盂や尿管が拡張する水腎症・水尿管症を起こすことがあります。

尿管閉塞が長く続くと、腎臓の血流や濾過機能が低下し、腎障害が進行する可能性があります。片側の尿管だけが閉塞している場合には、反対側の腎臓が機能を補うため、血液検査で腎数値の異常が目立たないこともあります。

一方、両側の尿管が閉塞した場合や、もともと腎機能が低下している場合には、急速に腎不全や尿毒症を起こすことがあります。

診断

腹部超音波検査、尿検査、血液検査などを行い、膀胱腫瘍の有無や尿管閉塞、腎機能への影響を確認します。

必要に応じてCT検査や病理検査を行い、腫瘍の種類や広がりを評価します。

治療

治療方法は、腫瘍の種類、大きさ、発生部位、転移の有無、腎機能、全身状態などによって異なります。

外科手術

腫瘍が限局しており、十分な膀胱の機能を残して切除できる場合には、膀胱部分切除を検討します。

ただし、膀胱の出口や尿管の開口部付近に腫瘍がある場合には、完全切除が難しいことがあります。

抗腫瘍治療

尿路上皮癌などの悪性腫瘍では、化学療法やその他の抗腫瘍治療を検討することがあります。腫瘍の種類によって治療への反応が異なるため、病理検査の結果や全身状態を踏まえて治療方針を決定します。

尿管閉塞に対する手術

尿管閉塞によって腎機能が悪化している場合には、腎臓を保護するため、できるだけ早く尿の流れを改善する必要があります。

点滴などによる全身状態の安定化を行いながら、閉塞の程度や腎機能を評価します。自然に改善しない閉塞では、尿管ステント、皮下尿管バイパス(SUB)、尿管腹壁瘻などの手術を検討します。

尿管腹壁瘻とは

尿管腹壁瘻は、尿管を腹壁まで導いて、体外へ尿を排出するための出口を作る手術です。

通常、腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱に流れます。しかし、膀胱腫瘍などによって尿管の出口が塞がっている場合には、尿管から膀胱へ尿を流すことが難しくなります。

このような場合に、尿管の一部を腹壁に開口させることで、閉塞した膀胱を介さずに尿を体外へ排出できるようにします。

手術の内容

  1. 腹部を切開し、閉塞している尿管の状態を確認します。
  2. 尿管を膀胱へつなぐのではなく、腹壁まで導きます。
  3. 尿管の先端を腹壁に開口させ、尿が体外へ排出される出口を作ります。
  4. 尿が腹腔内へ漏れないように、尿管と腹壁を適切に縫合します。

尿管の状態や閉塞部位によっては、腎臓側の尿管を利用して出口を作る方法や、腎瘻を併用する方法などが検討されます。実際の術式は、尿管の長さや状態、閉塞の位置によって異なります。

手術後の管理

尿管腹壁瘻では、腹壁に作った尿の出口から尿が排出されます。そのため、手術後は尿の排出状態や皮膚の状態を確認しながら管理する必要があります。

尿の出口が狭くなったり、尿管が再び閉塞したりすると、尿が腎臓側にたまって腎障害が進行する可能性があります。また、尿路感染症や尿の漏出などの合併症にも注意が必要です。

尿管腹壁瘻は、膀胱を介さずに尿を排出できるという利点がありますが、長期的には尿の出口の管理や定期的な検査が必要となる場合があります。

尿管ステント・SUBとの違い

尿管ステントは、尿管の内部に細い管を設置して、腎臓から膀胱へ尿が流れる経路を確保する方法です。

一方、皮下尿管バイパス(SUB)は、腎臓と膀胱の間に人工的な尿路を作り、尿管を介さずに尿を流す方法です。

尿管腹壁瘻は、尿管を腹壁へ導いて体外へ尿を排出する方法であり、膀胱への尿の流れを必要としない点が特徴です。

どの方法を選択するかは、腫瘍の発生部位、尿管の状態、腎機能、感染の有無、手術後の管理方法などを総合的に考慮して決定します。

今後の経過について

猫の膀胱腫瘍は、腫瘍の種類や発生部位によって経過が大きく異なります。特に悪性腫瘍では、腫瘍の進行や再発、転移に注意が必要です。

また、尿管閉塞を伴っている場合には、腎機能の維持が治療上の重要な課題となります。尿管閉塞が改善しても、腎臓に残った障害が完全に回復するとは限りません。

治療方針は、腫瘍をどこまで治療できるかだけでなく、腎機能、排尿状態、食欲や生活の質などを総合的に考慮して決定します。飼い主様と相談しながら、その猫にとって適切な治療を検討していきます。

 症例紹介

症例は5歳の猫で、他県の医療センターにて治療が難しいとのことターミナルケアに移行していましたが、なんとか治療ができないかとのことで来院いただきました。

来院時は意識が混濁しており、かなり危ない状態でした。
来院前日のBUNは204mg/dl K5.7mEq/L
来院時のBUNは251.4mg/dl CREは10.41mg/dl P18.5 K7.1mEq/Lで腎臓の状態はかなり悪く、カリウムが急激に上がってきていたので、短期間で心停止に陥る可能性がありました。飼い主様のご希望もあり、来院後に緊急手術となりました。

開腹をして膀胱と尿管を出したところです。膀胱は中に腫瘤が詰まっているため、丸く腫れています。膀胱から右の尿管まで腫瘤が広がっていました。

片側の尿管を膀胱から切り離し、カテーテルで確保した状態です。切り離した瞬間に尿管からは大量の尿が出てきました。

膀胱を摘出し、尿管を腹壁に固定した状態です。両方の尿管に入れたカテーテルから大量に尿が出てきていることが分かります。

術後の状態です。尿管に設置したカテーテルから尿が順調に出ています。

mg/dl来院前日来院時術後1H術後1日術後2日術後3日術後6日術後9日
BUN204.0251.4216.1158.4116.992.660.340.3
CRE7.810.417.954.773.192.480.850.62
スマホではスクロールできます→→

術後は順調に腎数値が下がっていることが分かります。
腎数値が悪いだけでなく、DICになりかけていたり、食べられない期間が長かったことによる腸炎があったり、神経症状があったりしたため退院までは時間がかかりましたが、なんとか無事に退院させることができました。