犬の僧帽弁閉鎖不全症について

よく知られているように、心臓には4つの部屋があります。
右側と左側に分けて考えることができ、今回は左側の心臓のお話です。
左側の心臓には
- 左心房
- 左心室
があり、その間にあるのが僧帽弁です。
僧帽弁は、本来
閉じるべきときにはしっかり閉じて、血液が逆流しないようにする弁ですが、
この弁がきちんと閉じなくなってしまった状態を
僧帽弁閉鎖不全症といいます。
僧帽弁閉鎖不全症があると、心臓の中で何が起きるか
通常は、
- 肺で酸素を取り込んだ血液が左心房に戻ってくる
- その血液が左心室に入り
- 左心室が収縮して、血液をすべて大動脈へ送り出す
という流れになっています。
しかし、僧帽弁がきちんと閉じないと、
- 左心室が血液を大動脈へ送り出そうとしたときに
- 血液の一部が左心房へ逆流してしまいます
これが僧帽弁閉鎖不全症です。
僧帽弁閉鎖不全症で問題になること
① 全身に届く血液量(=酸素)が減る
血液は、酸素を体中に運ぶ役割があります。
逆流が起こると、大動脈方向へ送られる血液量が減り、
体全体に届く酸素の量も減ってしまいます。
その結果、
- 少し動いただけで疲れる
- 散歩や運動で息が上がる
といった状態になります。
これを運動不耐症(要は、疲れやすい状態)といいます。
人の心臓病で、階段の昇り降りで息が切れるのも、同じ仕組みです。
② 左心房が大きくなり、咳が出る
逆流が続くと、左心房には常に余分な血液が戻ってくるため、
**左心房がだんだん大きく(拡大)**していきます。
犬は体の構造上、
左心房のすぐ上を気管が走っているため、
左心房が大きくなると、気管を下から刺激するようになります。
その結果、
- 心臓が原因の咳(心臓性の咳)
が出るようになります。
③ 肺に水がたまり、呼吸が苦しくなる(肺水腫)
左心房が拡大すると、
肺から血液が戻ってくる血管(肺静脈)にも圧力がかかります。
すると、
- 肺の血管の圧が上がり
- 血管から水分がしみ出して
- 肺胞の中に水がたまる
状態になります。
これを肺水腫といいます。
肺は、肺胞の中に空気を出し入れして酸素交換をしています。
その肺胞が水で満たされてしまうと、呼吸ができなくなります。
イメージとしては、
体の内側から水で溺れている状態です。
とても苦しく、命に関わるため、
できる限り肺水腫を起こさせないことが治療の大きな目的になります。
これらを防ぐために心臓の治療を行います
僧帽弁閉鎖不全症は完治する病気ではありませんが、
適切なタイミングで治療を始めることで、進行を遅らせ、症状を防ぐことができます。
ステージごとの考え方
ステージB1
心臓の検査で、
- VHS
- LA/Ao
- LVIDdN
という3つの指標(EPICリモデリング3項目)を
すべて満たしていない状態がステージB1です。
この段階では、
- 強心剤を必ず使ったほうがよい、という明確なエビデンスはありません
- ただし、体調や症状に応じて
- ACE阻害薬
- 強心剤
を使用することはあります。
3項目のうち1つ、または2つだけ当てはまる場合に
「強心剤など何かの薬を使うことで寿命が延びるかどうか」は、
現時点でははっきり分かっていません。
ステージB2
EPICリモデリング3項目をすべて満たしてしまった状態が
ステージB2です。
この段階では、
- 強心剤を使った方が寿命が延びる
という報告があり、強心剤をおすすめします。
強心剤の効果
- 左心室をしっかり広げる
→ 左心房の血液を吸い込み、左心房が小さくなる - 左心室をしっかり収縮させる
→ 大動脈方向へ送られる血液量が増える
→ 全身の血流と酸素供給が改善
その結果、
- 疲れやすさ
- 運動不耐症
の改善が期待できます。
薬を始めた後の検査について
腎臓の検査(約2週間後)
体には多くの臓器がある中で、心臓から出る血液の約25%は腎臓に流れると言われています。
そのため、血流を変える治療をすると、
最初に影響が出やすいのが腎臓です。
ただし、
血流が改善することで、腎臓の数値が悪化することはまれです。
安全確認のため、2週間前後で血液検査を行います。
心臓の再検査(1〜2か月後)
- 改善しているか
- 変化がないか
- 進行していないか
を確認するため、
レントゲンや心エコーで再評価を行います。
